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黒歴史現在完了進行中(仮)

やることなすこと黒歴史

紳士的なふたり

Diary/文体A

帰り道、翌日は大雪だということで急いで中央線の終電に乗り込んだ。
延々と都内を横切る電車に揺られていき、
席が埋まる程度に混んでいた車内も都心に近付くにつれて、人が段々と減っていった。

新宿駅に着くと、車内は半数以上のの人が下りて、少しだけ人が乗ってくる。
ふと顔を上げると、外国人男性と日本人女性が
仲良く英語で話しながら僕の席の隣に座った。
普段日本語の会話はあまり耳に入れないようにしているのだけれど、
英語の会話はなぜかリスニング感覚で聞き取ろうとしてしまう。
耳に入る程度だからそれなりに声は大きかったのだと思う。
とはいえ、僕も全然だから、節々の単語しか聞き取ることができない。
富士山とか、日光とか聞こえたから日本の観光地か何かの話をしていたのだろう。
おそらく初対面か、会ってそんなに経っていないようなぎこちなさが会話にはあった。

ここだけの話、西洋人の男性と英語をしゃべる日本人女性には多少の偏見があって、
人目をはばからず、身体的なコミュニケーションを取るイメージがあったので、
二人の会話の中身の紳士さになんとなく好感を持った。
ちょうど向かい側に座っていた日本人男女のアベックがやたらと顔を近づけて、
べたべたとしていたから余計にそう映ったのだと思う。

千駄ヶ谷の駅に着き、数人が乗ってきた。
ドアが閉じられ、僕が持っていた本に目を落としていると、バタンという大きな音がした。
顔を上げると、男性がドアの辺りで倒れている。
様子を見るに酔っ払いのようだ。
すぐに僕の隣の日本人女性が腰を上げかけたのだが、
ふらふらと立ち上がる様子を見るにつけ、そのまま腰を下ろした。

すべての乗客の視線もそちらに釘付けで
このまま吐かれたり、絡まれたりしたら面倒だなあ、という雰囲気がにじんでいる。
隣のお二人はというと、彼は大丈夫なのか、
酔っぱらってるみたいね、席を譲ってあげましょうかね、というような会話をしている。
次の駅に着いた所で、西洋人の男性が腰を上げて、再び崩れ落ちそうな彼の方に歩み寄った。

しかし、酔っ払いは空いた席の方にフラフラと歩いて行って、
すとんと椅子に座ってしまった。
手持無沙汰の男性は女性の方を向いて、
両手を広げてまいったね、というような表情で苦笑いをした。
そちらを見ている僕も思わずつられてニコニコとしてしまう。

すると、隣の女性がげらげらと大笑いをし始めた。
完全にツボに入ってしまったようで、大きな声でゲラゲラと笑い転げている。
男性もゲラゲラと笑っている。
僕もほほえましいなあ、なんて思っていたのだけれど、周りの人たちを見ると、
うるさいなあ、なんて苦々しいような顔をして、二人を見ている。

そうか、何をしゃべっているかわからない人たちが、
ゲラゲラと笑っていると、なんともいえない疎外感を感じてしまうのだ。
電車の中で電話をされると不快なのも会話の全貌がわからないのが理由だと聞く。
外国語話者がげらげらと笑っていれば、
なんとなくバカにされたように穿ってしまうことも仕方がないだろう。
個人でいるときの集団というのはいつだってうっとうしいものだ。

その後二人は飯田橋の駅で仲良く下りて行った。
これから長い夜を過ごすのか、はたまた途中で別れるのか。
乗客がほぼいない電車の中、少しだけほっこりさせてもらったからか、
彼らがなんにせよ、幸せな夜を過ごすといいなあ、などと考えていた。