黒歴史現在完了進行中(仮)

自由帳みたいなもの

――まずは東京で消耗しよう 『戦略的上京論』 長谷川 高

「東京へようこそ!」
という時代と逆行しつつあるような文言から始まる本書は
東京で暮らし、「楽しく」生きていくためのノウハウを示したものである。

凡百の自己啓発書に見受けられるような
「時間を大切に」「自分に投資をしよう」「人と会おう」というフレーズが
そこかしこに散見されるわけだが、騙されてはいけない。
本書のキモはそこではなく、
こうした要素が「孤独」「孤立」へ対処法だということだ。

都会に暮らすことのデメリットとして、
「孤独」があげられるのは今も昔も変わらない。
欲望の街と称される東京は善悪問わず様々な人がいるわけで、
そうした中の悲喜こもごもに疲れ切ってしまったり、
あるいは職場と家を往復するだけの日々が続くことで、
孤独に耐えきれなくなって心を患ってしまうなんてことは
この街では日常茶飯事である。

そのためには自分の居場所を作ろう、となるわけだが、
本書はまず東京での街選びの重要性を説く。
ある職種や人種の集まりやすい街、いわゆる「聖地」が東京には確かに多くある。
「オタクの街」秋葉原、「サブカルの街」下北沢、「文化の発信地」渋谷、etc...
この中でもあなたが特に興味のある聖地近辺に住むべきだと著者は説く。
こうした場所に住むことで、チャンスが生まれやすいのだという。
運という要素は確かに存在するが、試行が増えれば当然出会う可能性は高くなるのである。

僕自身の経験に照らし合わせても、実際に人と顔を突き合せる機会が多いほど、
親密になりうると感じるし、仕事のチャンスも数多いだろうと思う。
某有名アミューズメントパークで働いていたことがあるが、
その時の採用理由は家が近いからであった。
そういうちょっとした要素で人生というのは大きく変わるものである。

さらに著者は言う。

 ところで、あなた、あなたの家の家賃はあなたの故郷に比べて驚く程高いはずです。毎月の支払いに苦慮されていると思います。
 しかし、この家賃の高さは、こういった、世界的に見ても極めて恵まれた環境、
つまり世界の音楽、演劇、映画、絵画等を容易に楽しむことができるといった
付加価値分も含まれているのです。

せっかく東京に住んでいるのだから、溢れた欲望を思うままに貪れと。
僕のように都心まで一時間以上かかると、何かと出るのが億劫になってしまうもの。
しかし、都心に住めば30分もかければ、様々なイベントが至るところでやっているのだ。
それなのに家に引きこもっているなんてもったいない。
「テレビを消してPCを閉じて街に出よう」
と筆者は説くわけである。

これが都心に住むことで達成することができる3つの要素
「時間を大切に」「自分に投資をしよう」「人と会おう」
である。
こうした要素を踏まえて、後半では自己啓発的な要素に
本格的に入っていくわけであるが、ここからは本書のメインコンセプトとは
若干ずれてきてしまうので、今回は割愛する。
また前半部分も触れきれてない部分が多いため、
興味がある人がいれば、実際に読んでいただければと思う。


最近ではIターン、Uターンというような
地方への回帰論が以前にも増してもてはやされ、
里山資本主義』というロングセラーが出たり、
高知へ移住したプロブロガーがいたり、
こうした風潮は更に強まるばかりだ。
この兆候は従来の都市型資本主義に対する不安や、
「地域社会のあたたかさ」への幻想によるもの、
さらにはネットワークの進化による
コミュニケーション媒体の依存によるものが大きい。
彼らのような考え方は10~20年先を行く、
先進的な考え方なのかもしれない。

しかし、我々はいま、ここにある現実を生きていかなければいけないのだ。
だから、
「まずは東京で精一杯消耗しようぜ」
そう言い放つ本書は
東京を夢見る地方の若者のみならず、
都会で生きる、生きなければならない、
我々にとっては力強いバイブルとなるだろう。

僕もそろそろ都内に引っ越したいところである。
どこにしようかな。

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